一般の方へ
治験とは?
みなさんは病院や薬局でもらう薬がどのように生まれるかご存じですか?はじめに、製薬会社が開発した治療に有効と思われるくすり候補を見つけ出し、動物を使った考察をします。次に患者さんや健康な人に使用してもらい、安全性や有効を確認します。このくすり候補をみなさんに使用してもらう過程を治験と言います。治験では、くすり候補を体内に取り込むことで体にどのような影響が出るのかを調べます。くすり候補は国に承認を得て初めてくすりと認められるため、治験は新薬誕生にとって不可欠な過程だと言えます。
どのような過程でくすりはできるのか?
1.くすりの候補選び【基礎研究:2~3年】
化学合成や植物、土の中の菌、海洋生物などからの抽出、合成、バイオテクノロジーなどでくすりのモトとなる物質を発見したり、創り出したりします。
例)アオカビや土の中に住む放線菌など→ペニシリンなどの抗菌物質
ヤナギやキナなどの植物→アスピリン(痛みどめ)やキニーネ(抗マラリア薬)
2.動物等を用いた試験【非臨床試験3~5年】
動物を用いてくすり候補の効き目と安全性を確認します。
3.臨床試験【治験:3~7年】
動物実験を合格したくすり候補を、実際に人を対象にして有効性、安全性を確認します。
<第Ⅰ相試験> 対象:健康な成人
その安全性を中心にくすり候補がどのように吸収され排出されていくかを確認します。
<第Ⅱ相試験> 対象:少人数の患者さん
どのような方法でくすり候補を使うのがふさわしいのかを決めていきます。
(例:どれくらいの量を、どれくらいの時間をあけて、どれくらいの期間で…など)
<第Ⅲ相試験> 対象:多数の患者さん
実際の治療に近い形で効果と安全性を確認し、すでに承認されているくすりと効果や副作用などなどについての比較を行います。
4.承認・申請 【承認申請と審査:1~2年】
動物試験や患者さんにご協力いただいた治験の結果をもとに、新薬の効果や安全性が確認されます。厚生労働省及び関係各機関からの厳しい審査ののち、製薬会社に製造・販売の許可が与えられます。
5.新しい薬の誕生
新しいお薬として患者さんの元へ届けられます。
6.製造販売後臨床試験 【製造販売後臨床試験:6ヶ月~1年】
厚生労働省から承認され病院で患者さんの治療に使われている薬について、さらにその効果や安全性を確認するための試験です。
7.製造販売後調査 【使用成績/特別調査】
病院や診療所でのくすりの有効性や安全性の確認、適正使用の調査のための製造販売後調査を行います。
治験のルールとは?
治験には、患者さんに安心して参加してもらうためのルールがいくつかあります。
GCP省令
通常治験は、治験を実施する製薬会社、医療機関、医師が「薬事法」「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP)」に基づいて、参加していただく患者さんの意志と安全性を最優先に行われます。そして治験が各省令を守って行われているかを審査、評価する中立的な組織を治験審査委員会と言います。委員会では治験が①患者さんの安全、人権と福祉が守られているか②科学的根拠に基づいて行われているか等を詳細に話し合います。
- 治験を実施する病院や診療所の設備は適切か
治験を実施する医師は十分な経験を有しているか
同意説明文書が患者さんの権利を保証するものか - 治験計画にある検査や診断などが本当に必要か
くすり候補によってもたらされる利益(効果)が不利益(副作用)に勝っているか
インフォームド・コンセント(治験参加への同意)
医師は、くすり候補(治験薬と言います)の効果が期待される患者さんに治験の参加をお尋ねします。この「説明と同意」のことを「インフォームド・コンセント」といい、文書による説明と同意でなければなりません。治験への参加・不参加は患者さんの自由です。(ただし、検査の結果により患者さんが希望をされても参加出来ない場合もございます)
説明文書には次のことが書かれています
- 治験の目的、治験薬の使用方法、検査内容、参加する期間
- 予想される効果と起こるかもしれない副作用の説明
- 治験に関連した副作用や健康被害が起こった際、適切な治療と補償を受けられること
- 治験薬の安全性に関わる最新の情報を患者さんが得られる旨
- 患者さんの意志で治験をやめられる旨(それによって不利益を受けない旨)
- 人権と福祉を守って科学的に治験が実施されることを調査・審議する旨
- 独立した委員会(治験審査委員会)に関する事項
- 治験を担当する医師の氏名、治験の担当する薬剤師・看護師・臨床技師などの連絡先
- 健康被害が生じた際の治験担当者の相談窓口
- 患者さんのプライバシー
→病院の職員及び製薬会社には、法律で患者さんの情報(個人情報)に関しての守秘義務がかせられます。また、病院や診療所から製薬会社に送られる患者さんのデータは記号化されるため、個人が特定されることはありません。
患者さんに守っていただくルールとは?
患者さんが守るべき事項
治験に安心して参加していただくためには、患者さん自身に守っていただくルールもあります。
治験薬の服用方法、服薬期間、回数を正確に守る
服薬時間を過ぎて飲み忘れに気付いても、2回分を服用するのは避けましょう。薬の効果が強まって好ましくない作用が出る可能性があります。治験薬に関する対応に困った時は自分で判断せず、医師または治験担当スタッフに尋ねましょう。
未使用の治験薬は、未承認の薬なので、必ず返却する
余った治験薬を無断で使用したり、知り合いに譲渡して健康被害が生じても、患者さんの故意または過失と見なされ補償の対象にならない場合があります。
治験中の食事や運動には十分気をつける
強め運動や飲食、飲酒、喫煙が治験薬の作用に影響を与えることがあります。薬によって制限は様々ですが、健康食品のセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオドリギソウ)やグレープフルーツジュースは薬の働きに作用しやすいため、摂取制限の対象になることがあります。
治験参加カードを常に携帯しておく
治験参加カードとは、治験に参加する際、病院から提供されるカードのことです。このカードを他の病院を受診する時に提示すると、患者さんが治験に参加していることを前提により適切な治療を受けることができます。他の病院を受診する際は治験の責任医師に知らせ、受診の前に必ず治験参加カードを提示しましょう。
同意説明文書をよく読む
同意説明は、医師と治験担当スタッフによって行われます。治験中の大切な注意事項に関しては口頭で補助的な説明もありますが、詳しい内容に関しては同意説明文書に書いてあります。よく読んで参加を決めましょう。説明文書を読んでも分からないことは治験担当医師またはスタッフに尋ねて下さい。
※その他、注意事項は治験によって異なりますが、同意説明文書に記載があります。
副作用への注意
くすりには、その種類によってさまざまな好ましい効果がある半面好ましくない作用(副作用)もあります。しかも副作用のないくすりはありません。治験薬を服用している患者さんには、まれに治験薬との関係は問わない色々な症状や疾患が表われることがあります。少しでも体の変調に気付いた時はすぐに治験担当医師、治験スタッフに連絡・相談することが大切です。患者さんの治療を最優先に診療が行われます。
治験に参加する患者さんの利益と不利益とは?
患者さんが治験に参加することで生じる利益(メリット)と不利益(デメリット)を紹介します。
メリット
・治験専門の外来、専任看護師、薬剤師の設置
専門外来の設置により、患者さんの待ち時間を少なくします。また、専任の看護師、薬剤師がいることにより、健康に関する質問や相談をしやすい環境になります。
・製薬会社による治験実施期間中の検査費用、治験薬を含む一部薬の費用負担
・治験協力費の支給
治験参加に伴う時間的拘束や交通費の負担に関して、治験協力費が支払われます。
デメリット
・来院回数や検査の増加
通常の診療以外に、治験ために来院する回数が増えるかもしれません。一方で、治験のための検査が他の疾患の早期発見につながることもあります。
・プラセボの可能性
プラセボとは、治験薬と同じ形をした、有効成分の含まれない偽薬のことをいいます。治験の計画によってはプラセボを服用するグループに入ることもあります。プラセボによってその時点で最良の治療機会を失うこともありますが、プラセボを本物の薬と思うことで病気がよくなることもあります。(プラセボ効果)薬の病気に対する効果を公正に確認するためには、プラセボは必要なのです。