令和5年6月号 医師の働き方改革

 労働者の過労死が社会問題となり,労働者の働き方改革が進められています。医師については,2024年度から時間外勤務の上限規制が導入され,医師の働き方改革が本格的に始まります。医療機関は,勤務医の労働時間のすべてを把握することが求められ,勤務医は,決められた時間外労働の上限を超えることができません。勿論,働く人の命と健康を守るのは社会的にも最重要課題です。しっかりしたエビデンスの下に限度時間が決められたとは承知していますが,1か月時間外労働〇〇時間未満とかの細かい規制はいかがなものでしょうか。体力やストレスは個人差もあります。例えば軽いジョギングやスイミング程度の運動でも死亡例が報告されていますし,フルマラソンを完走できる人もいます。同様に業種により基準が変えられてはいるものの,届け出によっては時間延長も認められるとの例外項目が設けられています。過労の度合いは,話し合いで融通できるものなのでしょうか。そもそも法律に例外を設けるのは,最初から不充分としか思えません。究極には研修時間まで制限されるのか。必ずしも長時間がよいとは言えませんが,ある程度までは時間と成果は比例するようです。啄木の嘆いたようでは困りますが,働いただけの見返りがあるからこそ意欲が湧くのではないでしょうか。国の活力も同様に,労働人口減少に加えて時短となれば,生産力(国力)が落ちるのは目に見えています。

 働く人の健康を守ることは重要であっても,すべてを法律で縛るのはいかがなものでしょうか。古代中国における法家(諸子百家)の商鞅が自分の作った法律で自分を罰する結果になった悲喜劇もあるように,法が細部にわたり複雑になり過ぎれば,身動きが取れなくなる恐れもあります。

 ニュースによれば,国では公務員確保のために週休3日の検討を始めているそうです。いずれ民間にもその波が押し寄せて来れば,簡単には休めない医療界では,人の確保が更に困難になります。週休3日となり祝日や盆暮れの休みを加えれば,ほぼ半分は休みです。往年の学生による「デカンショ節」の「半年は寝て暮らす」という夢のような社会が実現するとは考えもしませんでした。地域医療の維持が更に深刻になりそうで大いに不安です。しかしながら,我々医師が健康に働ける環境づくりは,国民に対して良質な医療を提供することにも連動しています。地域医療を維持しながら医療経営も安定し,本来の意味で,持続可能な医療提供体制に繋がる改革にしていただきたいものです。

令和5年6月号