おしえて!ドクター健康耳寄り相談室

第37回 平成15年9月13日放送 
胃癌・大腸癌に対する腹腔鏡を用いた低侵襲手術
 
宮崎県外科医会   岩村威志

 

 悪性腫瘍(癌)は1981年に死因の第一位になって以来ますます増加の一途をたどっています。癌の中でも胃癌と大腸癌を合わせるとこれらの癌にかかっている患者さんがもっとも多く、治療には手術、抗癌剤、免疫療法、放射線治療やこれらを組み合わせた治療がなされています。現時点で癌をもっとも確実に体内から除去できる方法は手術療法ですが、手術は人工的外傷であり患者さんにとっては疼痛などの侵襲を伴います。この負担を軽減するために1980年代後半に腹腔鏡下胆嚢摘除術が開始されました。その後、鏡視下手術は胸部手術(気胸、肺癌など)、食道癌、胃癌、大腸癌、乳癌、泌尿器系の癌、甲状腺癌などの手術にも応用されています。

 腹腔鏡下手術では術後の免疫能の低下が少ないと考えられている一方で、腹腔鏡や腹腔内の操作を行う鉗子を入れる穴に癌細胞が着床するとの報告があります。すなわち開腹手術での創転移は1%以下であるが腹腔鏡下手術では4%と報告されておりこれは非常に大きな問題点であると考えられています。また、腹腔鏡下手術では腹壁創が小さく美容上優れている、疼痛が少なく早期離床や早期退院が可能である、排ガスまでの時間が短い、鎮痛剤の使用量が少ない、喀痰喀出が容易で術後肺合併症が少ないなどの利点が言われている反面、腹腔内圧上昇による下肢静脈血流速度低下に伴う血栓形成に起因する肺塞栓症の合併などの重大な合併症も報告されています。さらに術中の腹部所見や手術操作の困難性があれば、腹腔鏡下手術はいつでも通常の開腹手術に移行される可能性があることを認識しておかねばならなりません。

 現在、胃癌における腹腔鏡下手術の適応は、日本胃癌学会での治療基準ではI期の癌とされていいます。大腸癌においても適応は早期大腸癌とされていますが、欧米では進行大腸癌でも腹腔鏡下手術と通常開腹下手術で予後に差がないとされており、日本においても今後適応拡大が急速に進むと考えられます。腹腔鏡下手術はいまだ研究段階といわれていますし、患者さんは利点や欠点について十分説明を受け納得されたうえで腹腔鏡下手術を受ける必要があります。