おしえて!ドクター健康耳寄り相談室

第44回 平成15年11月1日放送
インフルエンザ対策と予防注射
 
宮崎県内科医会 平塚正伸
 

    

インフルエンザの流行シーズンがまた近づいてきました。

インフルエンザと普通の風邪との違いは感染経路や増殖力が違うため、その感染力と症状の重さに違いがあります。

 普通の風邪は、よく誤解されているのは、空気感染ではなく、手による接触感染によるものです。そのために感染力はあまり強くなく、広がることもありません。感染経路はかかった人の鼻水、せきなどによって手が汚染され、それによって机やドアのノブなどを汚染し、そこに触れた人が自分の鼻や口、眼などにもっていけば、ウイルスはそこから入り込んで4〜5日間の潜伏期間を経て発病するというわけです。眼と鼻は涙管でつながっているため、ウイルスに触れた手で、眼をこすることによっても感染します。よって手洗い、マスク、うがいが有効なのです。症状の点から見ていくと、普通の風邪の場合は熱がないことが多く、高くても38℃くらいまでで、頭痛や全身倦怠感などの全身症状もないか、軽いのが通常ですので、このため無理をしない程度に仕事をすることも可能です。

 一方、インフルエンザはせき、くしゃみなどによって空気中にとびちったウイルスを直接吸うことによっておこる空気感染のために、広がりが速く、感染力も強く地球規模で流行するのが特徴です。1回のせき、くしゃみで10万個のインフルエンザウイルスが空気中に飛び散り、そこにいた人が吸入した1個のウイルスは気道の粘膜で6時間後にはコピーされて増殖しはじめ、24時間後には症状が発現する100万個にまで増殖し、突然の38℃〜40℃の高熱が出現し、強い頭痛と全身倦怠感、関節や筋肉の痛みがでて、食欲もほとんどなくなります。高熱は2〜3日続き、横にならずにはいられないので、仕事や学校を休まざるを得ません。症状は、せき、鼻水といった風邪の症状は初期には軽く、熱が下がり始める3日目あたりから強くなってきます。解熱したあとも1週間、せきや鼻水、全身倦怠感などが続き、完全にもとの状態にもどるまでには10日から2週間程度もかかります。

 また高齢者の場合は、インフルエンザにかかっても、自覚症状の出にくい人もいます。インフルエンザをこじらせると2次的に細菌性の重い肺炎をおこし、入院が必要になることが多く、時には、命にかかわることもあります。頻度は低いものの、普通の風邪でも肺炎をおこすことがあります。

 さらに、ハイリスクグループの人(ぜんそくなどの呼吸器の病気、狭心症などの心臓の病気、腎臓の病気、糖尿病、がんで治療中の人)たちはインフルエンザにかかると肺炎をおこしやすいだけではなく、もとの病気を悪化させる可能性が高いのです。

 また低年齢層ではインフルエンザ感染歴がないから感染を防ぐ抗体をもっていないので、発症しやすく、重症化しやすく、死亡することはなくても、入院治療になることが多いので積極的に家族を含めてインフルエンザワクチン接種が必要になります。

インフルエンザ予防対策の3つの柱は

1.感受性対策:インフルエンザワクチンを毎年打つことが必要な人たちは、保育園児、幼稚園児、高齢者、ハイリスクグループの人達やその家族、介護する人たち、医療従事者、またワクチンを希望する人たち。

2.感染経路対策:流行時期には人ごみを避けましょう。

3.感染源対策:かかった人はマスクをして人にうつさないようにして、すぐに近くのかかりつけの病院に行き(48時間までには行くこと)迅速診断キットや臨床診断によりインフルエンザ治療薬を処方してもらいましょう。

<インフルエンザワクチンについて>

1.インフルエンザの予防にはワクチンを毎年接種して、ウイルスが鼻や咽喉頭部、気管支などの粘膜に侵入することを阻止することが基本となります。12歳以下は4週間の間隔をおいて2回、65歳以上は1回接種します。13歳以上64歳以下でも近年確実にインフルエンザにかかってたり、インフルエンザの予防接種を受けている場合は、1回接種で十分です。接種後2週間後には十分な抗体の上昇が得られ5ヶ月間持ちますので、シーズンが始まる前にはかかりつけ医に相談し、11月末までには、インフルエンザワクチン接種を終えておくことが望ましいです。

2.感染を防げるインフルエンザAとBの抗体価(HI法)は、今年のワクチン株とインフルエンザ感染が同様であれば40倍以上あれば良いといわれていますが、前シーズンより変異したインフルエンザウイルスが見つかっており、その変異したウイルスに対しては160倍以上あれば発病阻止に有効と言われています。ただし、老人や低年齢の幼児は抗体が上昇しにくいので、感染予防というよりは重症化の予防が主体となっています。抗体検査はワクチン接種後2週間たてばできますので、心配な人はかかりつけ医に相談されて、自費でしてもらいましょう。もし40倍以下の人は追加ワクチンをしても上昇は望めませんので、その場合は人ごみを避け、体力を落とさないように、栄養、睡眠などに注意することが大切です。場合によってはかかりつけ医と相談され、十分な指導のもとに、迅速診断キットとインフルエンザの薬を自費で分けてもらい発症したら連絡をしてすぐに使用し、かかりつけ医を受診し、ほかに悪くなっている所がないか調べてもらいましょう。

3.インフルエンザは地球規模で周期的に流行を繰り返す疾患で、今年、厚生労働省はSARSとの症状と鑑別しにくいので医療機関への混乱をさけるために、海外に出かける人にはインフルエンザワクチンを打つように指導しています。