おしえて!ドクター健康耳寄り相談室

第46回 平成15年11月15日放送
漢方の診察法
 
宮崎県東洋医会 木下恒雄
 

 

 漢方の診察は医師の五感によって行われます。

それは視覚による望診(ぼうしん)、聴覚と嗅覚による聞診(ぶんしん)、医師が質問して患者さんに答えていただく問診(もんしん)、医師が直接患者さんのからだに触れて診察する切診(せっしん)(脈やおなかなどをみます)の四つの診察法:四診(ししん)が用いられます。

このようにして得られた情報を総合して、漢方治療上必要な徴候や体質傾向を意味する陰(いん)・陽(よう)・虚(きょ)・実(じつ)、寒(かん)・熱(ねつ)、漢方的な病気の位置を意味する表(ひょう)・裏(り)・内(ない)・外(がい)を判断して、さらに代表的な漢方の病理観とも言えます気(き)・血(けつ)・水(すい)の状態を考慮の上、とくに漢方治療上大切な「証(しょう)」を診断しまして、それに応じて治療法(どの漢方薬がこの患者さんに適しているか)を決めます。

したがって漢方の診断は病名や現代西洋医学的な病状の診断ではなく「証」の診断ということになります。たとえば、かぜの初期などで汗が出やすい傾向があって、脈は軽く指を触れただけで打っているのがわかり、おさえこむと強くは打ち返してこない力の弱い脈であれば桂枝湯(けいしとう)証、更年期障害や自律神経失調症などでいろいろと訴えが多く、ときに上半身に突然熱感が起こり、汗がにじみ出してくる、おなかをみると肋骨弓(1番下の肋骨)のすぐ下にごく軽い抵抗(緊張)がある、というような状態であれば加味逍遥散(かみしょうようさん)証と診断して、それぞれ桂枝湯、加味逍遥散を用います。

 このようなわけで、現代西洋医学ではあまり問題にされていないような症状があるかどうかも患者さんにお聞きします。このようにして病名の何であるかにかかわらず患者さん個人の病状や体質に適した治療をめざします。オーダーメイド的治療といってもよいと思います。しかし、お気づきのように漢方的診察だけでは癌の診断や心筋梗塞の診断などはできませんので、現代西洋医学と漢方はそれぞれの長所を生かし短所を補いながらこれからの医療に貢献しなければならないと思います。