おしえて!ドクター健康耳寄り相談室

第59回 平成16年2月14日放送
風邪と耳鼻咽喉科
 
宮崎県耳鼻咽喉科医会  大野 政一

 

 

風邪をひくとその症状として 鼻水、くしゃみ、鼻詰まり、咽喉(のど)の痛みや咳そして発熱等が起こります。風邪は鼻、咽頭そして喉頭すなわち上気道の炎症の状態です。したがって、耳鼻咽喉科と極めて関係の深い疾患です。風邪は上気道炎、感冒[寒冒]そして急性鼻咽喉頭炎と病態としては全く同じものです。原因として、うたた寝をしたとか湯冷めをしたとか汗を充分拭かなかったとかひどく疲れていたとか等の身体の普通と異なる状態によって、また急に気温の変化が起こったとかの物理的刺激によって非感染性に自律神経も含めた生体反応の失調で起こることもあります [寒冒]。しかし、この生体反応の失調状態に併発することもあるのですが、より多発し重症で注意が必要な状態はウイルスや細菌の感染で起こります[感冒]。この感染性に起こる上気道炎のうち80%以上はウイルス性で人に風邪症状を起こすウイルスは200種ぐらい存在していることが判っております。この冬流行が懸念されているインフルエンザもウイルスで気道や肺への親和性が高く、しかも毒力が強いので発症率が高く突然に39℃前後の発熱をきたし頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感等の全身症状が強く気管支炎や肺炎などの下気道炎にも進展しやすいという特徴があります。乳幼児や高齢者では重症化しやすいので特に注意が必要です。

 今期はインフルエンザの予防注射を受けられた方も多いと思われますが、予防注射を受けておけば例え発症しても軽い症状で済み高熱をきたすことなどが殆どなく、今特に問題になっている一般症状だけではインフルエンザと鑑別が極めて困難な死亡率10%のSARSを否定出来ることになります(ちなみにインフルエンザの死亡率は65歳以上の高齢者で0.5%)。最近迅速診断キットによりインフルエンザ感染の有無をチェックできるようになりました。最も診断の精度がよい分泌物採取部位は鼻腔最深部の上咽頭の部位です。この上咽頭はまた上気道のなかで他の難治性感染菌も最も発見される部位で耐性菌保菌者の確認が可能な場所です。この外部から見えない上咽頭部に最も精通しているのは耳鼻科医です。したがって風邪の診断加療に対し我々耳鼻科医が何らかのお役に立てることがもっとあると思っております。風邪が原因となり急性中耳炎、急性副鼻腔炎、急性扁桃炎等の併発が診られることもあり早い時期での耳鼻科的診察加療が必要な例も多いようです。しかし乳幼児の上気道炎は先に小児科で、また成人でも高熱があり咳のひどい時、胸部に違和感を伴う時やインフルエンザの際に述べた全身症状を伴う時などは下気道炎[気管支炎や肺炎]を起こしている可能性がありますので内科を先に受診された方がよいと思われます。

 

 耳鼻咽喉科として特に注意して欲しい疾患として風邪の症状を呈しながら急激に呼吸困難となり窒息状態となる急性喉頭蓋炎という怖い病気があります。頻度は極めて少ないのですが喉頭の最上部にある喉頭蓋が短時間のうちに浮腫性に腫脹する疾患で早急に気道確保がなされないと死に繋がることがあります。

 

 時には挿管による気道確保が困難なことがあり外科的に緊急気管切開が必要なこともありますので風邪の際息苦しさに気付いた時は早めに入院設備のある耳鼻科医のいる機関を受診されることをお勧めします。ふだん外科的手術操作をしていない私の所のような耳鼻咽喉科診療所では救命が無理なことがあります。

 

 風邪の治療で最も大切なことは安静です。ただ、皆さんは多忙のため少々の風邪症状では仕事を休まれないため消炎解熱鎮痛剤や抗生、抗菌剤が投与されているようです。しかし、副作用の皆無という薬剤はありませんし、以前使用した時は問題のなかった薬も体調の悪い時は副作用が出やすい傾向が見られます。風邪薬内服中に痒みを自覚したり皮膚炎、口内炎それに下痢などに気付いた時は早めに主治医に相談されたほうが良いでしょう。近年中耳炎に反復して罹患される子供さんが増えてきました。しかも、感染菌も薬の効き難い耐性菌に少しずつ変化していくようです。子供さんも多忙で保育園に行かねばなりません。そこでお互いに感染菌のやり取りをして頻回、風邪に罹患して中耳炎を併発していることが判ってきました。"保育園症候群"と呼ばれている状態です。暫く保育園を休んで祖父母に看てもらうのが良いのですが、核家族化が進んでいますので無理なこともあります。最近ウイルスや細菌もその生き残りを懸けて変化し、我々を脅かすようになってきました。我々もライフスタイルを変えてでも対応することが求められているようです。