おしえて!ドクター健康耳寄り相談室

 平成16年5月22日放送
PTSD(外傷後ストレス障害)について
 
          宮崎県精神科医会 細見 潤

外傷後ストレス障害(PTSD)とは殆ど誰にとっても大きな苦悩を引き起こすような著しく驚異的で破局的な性質を持った出来事に対する外傷反応です。日本では阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、佐賀のバスジャック事件、東海村の放射能漏れ事件などの自然災害や人為災害、犯罪で注目され、その他、交通事故や被虐待体験、家庭内暴力被害、性暴力被害などでも、出現する事があります。思い出したくないのに繰り返しそのことを思い出し苦痛を感じたり悪夢にうなされるといった再体験症状、思い出させるものを避けたり場所に近づけないといった回避、麻痺症状、睡眠障害やちょっとした物音などにも敏感に反応してしまうといった覚醒亢進症状が出現し、しかもこれらの外傷反応が1か月以上持続して認められた場合にPTSDという診断になります。

このような外傷反応はけして病気と考える必要なく、脳や心が回復していくためのプロセスです。体験した出来事や状況が異常なのであって、症状そのものは異常な事態に対する正常な反応なのです。

 一人で考え込まずに、心から安心と思える家族や友人に話をすることは早期の回復の役立ちます。なるべくそれまでの日常生活に戻ることも回復の役に立ちますが、消して無理はしないことです。また、十分な睡眠をとることも大切で、どうしても眠れないのなら、専門医に相談して一時的に睡眠薬を利用することも良いことです。眠れないからといってアルコールを利用することは極めて危険です。

 「頑張ってください」といった励ましや「つらいことは早く忘れましょう」とか「生きているだけでもよいと思って」といった助言はほとんどの場合、当事者を深く傷つけます。周囲の人が行う一番安全な対応は黙って当事者の話を聞くことです。