ビブリオ・バルニフィカス感染症発生のお知らせ
7月に入り、熊本県内にて3名のビブリオ・バルニフィカス感染例が報告され、うち2例が死亡、1例は重傷で治療中との報告がありました。
まれな感染症ではありますが、肝障害患者に感染した場合には劇症となり短時間で死亡する例がありますのでご注意ください。
○ 熊本県医師会からの情報提供
八代郡内在住男性(3人、いずれも肝臓疾患あり)が、ビブリオ・バルニフィカスという細菌に感染し、1人が敗血症を起こして死亡、2人が重症(後に、このうち1例も死亡)。
1. 50歳代男性(死亡)
12日夕方にコチの刺身を食べ、翌日発熱。地元の病院から熊本市内の病院に転院されたが、14日に死亡した。
2. 60歳代男性(重症)
7月8日夜と,9日朝にシャクミソを食べ、翌日発熱などの症状が現れた。
3. 70歳代男性(重症)
7月8日、シャクのしょう油漬けを食べ、10日に発熱。
Q: ビブリオ・バルニフィカスとは?
A: 腸炎ビブリオやコレラ菌などと同じビブリオ科に属し、腸炎ビブリオ(Vibrio
parahaemolyticus)と性状などで共通点も多いグラム陰性桿菌です。ビブリオ・バルニフィカス(V.
vulnificus)の名前はこの菌が創傷(wound=vulnus)を起こすことに由来しています。
主に暖かい海水中の甲殻類や魚介類の表面や動物性プランクトンなどに付着しつつ増殖し、周囲の海水中にも遊出します。2〜3%の塩分濃度で良く増殖し、汚染された魚介類の摂取や皮膚の創傷などから人に感染します。
Q: どのような症状をおこし、どのくらいの症例があるか教えてください?
A: 健常者では下痢や腹痛を起こすこともありますが、重症になることはほとんどありません。しかし、免疫力の低下している人や特に肝硬変などの重大な肝臓疾患のある人などでは注意が必要となります。また、治療のために鉄剤の投与を受けている貧血患者も注意が必要という指摘もあります(医系微生物学:朝倉書店、初版本p.211)。肝臓でのクリアランスの低下や、血清鉄が細菌の病原性や増殖性を増すことなどから、細菌が血液中に侵入し、数時間から1日の潜伏期の後、峰巣炎等の皮膚病変の拡大や、発熱、悪寒、血圧の低下などの敗血症様症状を起こし、生命を脅かすことがあります。この細菌が血行性に全身性感染をおこした場合、致死率は50〜70%と非常に高くなります。 国内では現在までに分かっているだけで100例以上が報告されています。
Q: 治療・予防方法を教えてください?
A: 治療は補液や抗菌薬による治療が中心となります。
米国ではドキシサイクリンや第3世代セフェム薬剤が使用されます。
国内でも、同様に第3世代セフェム薬剤やテトラサイクリンなどで胆汁排泄型の薬剤が効果
があると言われていますが、病状が進行してからの投与は無効です。
ハイリスクの人が生鮮魚介類を生食後、体調に不調を感じたら直ちに医療機関にかかることが重要です。
我が国では刺身や寿司等の材料となる多くの魚介類の摂取が原因となっていますので、肝臓障害をもつ当疾患に対するリスクの高い人は、夏は生の魚介類を控えた方が良いでしょう。一方、欧米での原因の多くは、生牡蠣の摂取です。
予防方法としては、肝臓障害をもつ当疾患に対するリスクの高い人は、夏季に生牡蠣や十分調理されていない魚および貝類を食べないようにする。貝を煮るときには貝が開いてからも5分間、蒸す場合には9分間以上の調理を行う。開かない貝は食べないようにする。むき身の牡蠣は3分間以上ゆでるか、191℃で10分間以上油で焼く。調理済みの食品が他の生の魚介類からの汚染を防ぐ(まな板など)ようにする。調理したらすぐに食べるなどの点に注意が必要です。
海岸や岩場で裸足で歩いて貝の殻などで怪我をし感染したと思われる事例も過去にありますので、ハイリスクの人は海岸での素足歩きは禁物です。
(Q&Aは、国立感染症研究所:感染症情報センター・細菌部・細菌血液製剤部より引用)