|
アルコール障害のあれこれ
ウイルス性肝炎とアルコール摂取 高瀬 修二郎 ウイルス性肝炎においては、一般に機会飲酒程度の少量 のアルコール摂取であれば、肝機能 検査への影響は認められない。しかし、どの程度のアルコール摂取が許容範囲であるかについ ては、個々の肝病態によって異なると考えられる。 一方、本邦での常習飲酒家(日本酒に換算して1日3合以上、5年以上)の肝障害では、必ず しもアルコールのみが原因とはいえず、40%の症例に肝炎ウイルス感染(ほとんどがC型)が 合併して認められる。肝炎ウイルス感染の頻度は肝障害の病型によって異なり、脂肪肝・肝線 維症およびアルコール性肝炎では比較的低いが、大酒家慢性肝炎と肝癌では70%肝硬変では ほぼ50%である。これらのウイルス感染合併例では、いずれが肝障害の主役を担っているかを 鑑別することは容易ではなく、両者が共に肝障害の進展に関与していると考えざるをえない例 も少なくない。 また、大酒家のC型肝炎について血中HCV-RNA量の推移を追跡すると、約半数例では禁 酒後にHCV-RNA量が明らかに低下し、一部に再飲酒によってHCV-RNA量が増加する症 例も経験されている。 さらに、肝硬変患者の病因別、年齢別肝癌有病危険率を多重ロジステイック回帰分析モデル によって解析すると、「アルコール単独群」に比して「ウイルス単独群」および「アルコール +ウイルス群」の肝癌有病率は有意に高値を示し、しかも「アルコール+HCV群」では「HC V単独群」よりも高率である.このことは、アルコールとHCVが肝発癌に対して、相乗的効果 を 有していることを示していると考えられるが、アルコールとHBVの間にはこのような相互作用 はみられない。 以上のように、過剰の飲酒はHCVの増殖を促進し、肝発癌に相乗的効果 を及ぼす可能性が 示唆されており、特に、C型肝炎患者では絶対的な禁酒が求められる.
妊婦とアルコール摂取 田中 晴美 妊婦(厳密には子どもを望む母親)は、飲酒(エタノール摂取)を中止すべきである。 これは、妊娠中の飲酒によって、その子どもに主として知的な発達障害が生じるため、 現在では世界的な常識である。この異常、胎児性アルコール症候群(FAS,表1参照) は、欧米で1968〜1973年に確立された。 1.FAS,FAEの概念 1980年提唱されたFASおよび不全型のFAEの特徴は、子宮内での高度エタノール 曝露による成長障害あるいは形成不全という概念で統一される.発生頻度は、1980年代の 欧米では一般集団中で生産1,000対FAS:1,FAE:4であったが、1990年代になって FAS:0.3という値もみられる。1990年代の日本における検討では、出生1,000対0.1以下 (FAS+FAE)と低値である。 2.症状・予後 中核となる異常は軽度から中程度の知的障害であり、これと成長遅滞や形態異常の程度とは、大量 飲酒(あるときに少なくとも純アルコール75ml,そして月に少なくとも純アルコール675ml)からの子どもでは、ほぼ比例している.FAS児の成長遅滞はキャッチアップしにくい。 中枢神経系の障害では、精神・運動発達遅滞とともに、視覚認識障害、記憶(短気)力 の低下、情動不安定、多動、注意力散漫などが特徴的である。 一般的には、年長になるにつれ、顔面 、頭蓋の形態異常ははっきりしなくなる。 日本症例の顔面の特徴は軽度である。 3.発生機序 原因物質であるエタノール(一部にアセトアルデヒト)の直接作用としての胎芽・胎児 細胞における蛋白合成阻害が関与する。典型的なFAS児は、妊娠中継続した大量 飲酒 母体から出生している。 子どもの異常がFAS,FAEと多様であるのは、母親のアルコール分解能などの遺伝 形質の関与に加え、妊娠中の飲酒時期と期間(危険時期)および飲酒量と飲酒パターン (危険量)との差異による。危険量として、1日平均純アルコール60ml以上という値は知られている。 アルコール離脱症候群 洲脇 寛 アルコール離脱症候群は、経時的な一連のシリーズとして出現する。 すなわち、飲酒中断後、6〜8時間でふるえ、落ち着きなさ、衝動的飲酒欲求 (craving)などが出現し、やがて痙攣発作を伴うようになり、48〜72 時間後にはせん妄状態に移行し、離脱症状はピークに達する。もし、 栄養障害や身体疾患、ウェルニッケ・コルサコフ脳症などの合併がなければ、 4〜5日後には回復に向かう。 しかし、このようなシリーズが、いつも同じように認められるとは限らず、 早期離脱段階で頓挫したり、重症例では、いきなりせん妄に入ってしまうこ ともある.現在の完備した医療環境でも、病院を訪れるアルコール依存症者の 5%程度が、せん妄まで発展するといわれている。 習慣性飲酒から依存へは、いつのまにか連続的に移行するが、最初の離脱 症状は、われわれが考えているより、はるかに早期に出現する。朝から強い 飲酒欲求に見舞われたり、日中も時々アルコールが入らなければ落ち着いた ペースで仕事ができなくなるなどは、すでに離脱症状が出現していると考え てよい。こうした際、夕食時まで時間を待つという自覚が、アルコール依存 への発展を予防するうえで大切であろう。 今日、離脱症状への定式化された治療法に、ベンゾジアゼピン系薬物の 投与がある。半減期の比較的長いジアゼパムやチオリダジンを初期に飽和さ せ漸減する方法がとられる。半減期の短い薬物では、頻回の投与を必要とし、 薬物そのものの離脱症状の問題が生じてくるので慎重を要する。ベンゾジア ゼピン以外の薬物としては、カルバマゼピンなどが試みられている。 ひとたび離脱せん妄へ発展すると、どの薬物も対症療法の域を出ない. せん妄に伴う不穏、衝動行為に対してハロペリドールやレボメプロマジンが 用いられるが、これらの薬物は、痙攣閾値を下げたり、中枢性抗コリン性 障害や悪性症候群を誘発しやすいので注意を要する。離脱せん妄の何よりの 治療法は早期離脱の段階で離脱症状を頓挫させ、せん妄への発展を予防する ことであることを銘記すべきであろう。 アルコール依存症患者の手術 アルコール依存症または大酒家が手術を受けるとき、痲酔科医から 「酒飲みは痲酔がかかりにくく、また痲酔深度が不安定だ」という 話をしばしばきかされる。 内科医も酒飲みは局所痲酔や鎮痛剤が効きにくいことを経験している。 このような現象はなぜ起こるのだろうか? アルコールは、肝細胞(細胞質)にあるアルコール脱水素酵素に よって代謝されるだけでなく、肝ミクロソームにあるチトクローム P-450(以下、Pー450)によっても代謝される。そして慢性飲酒 によってPー450は増加する。一方、このPー450は同時に多くの 薬物(鎮痛薬、痲酔薬、中枢神経系作用薬など)を代謝する酵素系 でもあるため、アルコールはその代謝経路の一部を薬物と共有するこ とになるといわれている。 すなわち、慢性飲酒によって肝ミクロソームPー450が誘導されて 薬物代謝酵素活性は高まり、薬物の代謝分解速度は亢進する。その 結果、薬の効果 が短くなったり、効きにくいという現象を生ずること になるのである。これはアルコール依存症患者が手術を受ける際に注意 すべき点であろう。 ただし、これは酒飲みが「しらふ」のときのことであり、もし現在 酒を飲んでいて血中にアルコールが存在するときは逆効果になり、 肝ミクロソームPー450においてアルコールと投与された薬物が競合 することになり、薬物の分解が遅延し、作用が遷延したりする点にも 留意する必要なのである。 特発性大腿骨頭壊死 本症は成人の股関節に、明らかな原因なく大腿骨頭に無菌性・阻菌性の壊死を 来す疾患で、その変性、破壊、修復過程が複雑に進行し、二次的股関節症を来し て歩行運動障害をもたらす。本症の記載は19世紀末からみられるが、きわめてま れな疾患と考えられていた.しかし、フランスにおいては比較的よく知られていた。 わが国においても従来から報告はきわめて少なかったが、近年その報告例が増す につれて関心も高まり、厚生省でも特発性非感染性骨壊死症調査研究班を組織して 本症の実態につき調査している。本症患者の既住歴をみると、アルコール依存症 または大酒歴を有する者が約30%、副腎皮質ステロイド使用歴のある者が約30% を占めており、年齢的には20〜50歳代で全体の80%以上を占め、40歳代が ピークである。両側股関節に発生する率が高く(35〜75%)、症状としては、 股関節部の疼痛あるいは座骨神経痛様の疼痛を認める。次第に股関節の可動制限、 歩行痛、跛行が増強してくる.確定診断は通常単純X線写真でなされるが、ごく 初期では断層撮影、骨シンチ、MRIが役立つ。 本症とアルコール依存症との関係は、1928年にAxhausenによって初めて指摘 されて以来注目されており、その合併頻度は本症患者の17〜74%と対象によって 幅広いが、わが国では約30%の症例に認められる.しかしその成因については、 アルコールによる血流障害、脂質代謝異常、小外傷の反復による損傷などが考え られているが不明である。 |
|