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ホーム > 医療の窓 > 2009年8月号

ピロリ菌のお話

 ごく最近、いきなり初老の男性が診察室に現れて「先生、胃の中に菌が居るから殺してくれ!」と少し慌てた素振りで入って来られた。大方、察しはついているのだが、あえて「何の菌?」と問うと「ぺロリとかポロリとか言う菌」という返事が返ってくる。「ああ、ピロリ菌の事ね」と返答すると「そうそう、それそれ、そのピロリ菌!」と言いながら、話しが通じた事で少し落ち着かれる様子がみられるが、必ず次の会話がこうだ。「そのピロリ菌がいると胃癌になるそうじゃないですか!」「まあ、待って下さいよ」と言葉を抑止し、右机上に積み上がった診察カルテを横目にしながら「私の話しを聞いて下さい。」と話しを続ける。「先ず胃の中のピロリ菌は50歳代で7割以上、あなたの様な70歳代では8割以上の人が保菌しているので、あなただけが特別じゃないんですよ。大袈裟に言えば、皆な持っていると思って下さい。実際、私も検査してみたらピロリ菌が居ることがわかりました。日本人のほとんどが持っているとしたら、あなたの話しによると、日本人は皆な胃癌になってしまうことになりますよね。なのに、現在の日本の癌による死亡の1位は肺癌ですよ。おかしいじゃありませんか?」と説明すると、少し安堵された様子で「そうですよね」と話しの中に入ってくる。「しかし、あなたがおっしゃるのも、まんざらウソでも無い様ですよ。でもその前にハッキリしている事は、胃や十二指腸の潰瘍とピロリ菌は密接な関係があって、潰瘍を患ってる人はピロリ菌を殺さない限り、何回もくり返すので菌を殺した方がよい(これを除菌と言う)のです。」すると少し興味を持たれて「どうやって殺すんですか?」「1週間だけ除菌用の薬を朝食後6錠、夕食後6錠を服用するんです」「1日に12錠も飲むんですか?」「そうです。そんなに沢山服用しても除菌率は80%~85%です。」「菌が殺されなかった人はどうするんですか?」「その時は第二段階の除菌用の薬が別にあるんです」「それで除菌されるんですか?」「ほぼ100%です」「ふう~ん、でも私は潰瘍がある訳では無く、ピロリ菌が居るだけなんですけど・・・私はどうしたら良いですか?」「そうそう、それが今日の相談ですよね」だんだん核心に近づいてきた。
「あなたの場合は、現在胃や十二指腸の潰瘍は無いし、過去にも潰瘍歴が無いので保険診療内(カルテを使って)で、除菌の薬を処方することができないんです。それでも除菌剤が欲しいと言われると保険外(自費)で薬を買わなければならないんです。」「1週間分でいくらぐらいするんですか?」「約7000円です」「私はどうしたら良いですか?ピロリ菌を殺した方がよいですか?そのまま保菌してて胃癌になったりしませんか?」「それはあなたが決断する事なんですけど。その前に一つ聞いてよろしいですか?」「はい」「あなたの家系は胃癌家系ですか?」「いいえ、私の家系には胃癌は誰も居なくて、どちらかと言うと両親も長生きでした。」「そしたら、今は胃の症状がある訳でも無いし、食欲もあるので、そのまま放置されていてよろしいんじゃないですか。今後、胃部症状が出現すれば、いつでも胃の検査やピロリ菌の詳しい検査ができて、必要があれば除菌は可能ですよ。」「それなら、しばらく様子をみることにします。」と一度立ち上がろうとして、ふと思い付いた様に「先生、もし私が胃癌家系なら自費で払ってでもピロリ菌の除菌をした方が良いですか?」即、「私ならそうします。」と答えると少しにんまりして「ありがとうございました。」と言って診察室を後にされた。
                                           平成21年8月6日
                                             野 辺 医 院
                                               野 邊 俊 文








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