平成27年10月

宮崎県医師会長 河野 雅行

          健康長寿とロコモティブシンドローム


 昨今,「ロコモ」という言葉を多く耳目にするようになった。「ロコモ」とはロコモティブシンドロームの略で,運動器症候群と訳されている。現在の日本は世界でもトップの長寿国となった。しかし,歳を取っても元気で動けるいわゆる健康寿命とは10年程の差があり,この健康寿命の延伸が望まれている。宮崎県の統計では女性の健康寿命が74.62歳で全国8位,男性は71.06歳で11位である。それを全国1位にすることを将来の目標としている。要は疾病を早期に発見治療し,社会復帰を図ることは勿論,更に踏み込んで言えば,疾病にかからない工夫・予防に取り組む必要がある。現代人は食生活・生活環境の変遷から運動・歩行頻度が減少し,足腰が弱くなり,さらに飽食の結果,肥満や糖尿病・高血圧・心臓病等の所謂生活習慣病の有病率が高くなり,ひいては医療費高騰の一因を成しているとの指摘がある。国も国民の健康増進のための生活習慣病予防対策として,特定健診や特定保健指導等の取組みをしている。しかし,一定の効果は見られるものの,期待された程の結果は得られていない。また,各専門分科医会でもそれぞれに様々な取組み・対策を行っている。
 整形外科分野では,転倒による怪我や骨折により,寝たきりや介護を要する状態になるケースが多いことから,様々な対策が講じられた。転倒予防には,特に下半身の骨・筋力増強や関節運動能力・バランス感覚の維持が必須とされている。2007年頃に国立障害者リハビリテーションセンターの中村耕三先生等によってロコモティブシンドローム予防,略してロコモ予防が提唱された。日本整形外科学会ではパンフレットを作成し,一般国民にも分かり易く理解できるような「ロコチェック」やロコモを防ぐ運動「ロコトレ」を提案して,様々な機会を作り講演や啓発をしている。「ロコモ」とは語呂も良いし,最近はロコモ自体が一種のブームになりつつある。
 本年7月に日本運動器科学会が宮崎で開催された。ロコモ予防をテーマとした市民公開講座には予想を大きく超える395名もの市民が参加し,質疑応答時には活発な質問があり,県民のロコモに対する関心の高さが伺われた。アンケートでは,宮崎県民のロコモ認知度は全国一である。これはロコモの啓発に努力をされている宮崎大学整形外科・帖佐悦男教授の功績に負うところが大きい。
 ロコモ予防の結果,元気な高齢者が増える期待が持てるし,それを示唆するデータもある。重症化した生活習慣病や骨折等の外傷を予防することで,高齢者の有病率を下げ,医療費の削減に繋がるのではないかとの期待も持てる。若い時分(出来れば小児時代)から運動する習慣を付ければ更に効果は増すものと思われる。先に述べたように宮崎県では健康長寿日本一を目指しており,県医師会も全面的に協力・推進して行きたい。但し,これは我々のみの努力では限界がある。行政・関連団体が協力することは勿論,何と言っても県民各個の自覚が最重要である。 
                                        (平成27年9月18日)
                                      


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