平成26年9月

宮崎県医師会長 河野 雅行

        混合診療について-混合診療解禁阻止を-
             


 首相が成長戦略の一環として混合診療解禁の方針を打ち出した。医療界の壁を突き抜けるような政策を盛り込むとの表現までしている。混合診療解禁の方針は以前から歴代の政府でも規制改革とか成長戦略とかの名目の下,様々名称を替えて出没させている。今回の方針によって蠢動していた混合診療解禁への動きが闊歩し始めるであろう。既に各方面の動きが慌ただしくなっている。究極のターゲットは我々の貴重な財産である国民皆保険制度である。現在,我が国が世界でも有数の健康長寿国になったのは,この制度に負うところが大である。その制度が狙われている。
 しかし,医療はそんなに儲かるものであろうか?経済界の幻想ではないだろうか?それとも我々の知らない錬金術でもあるのか?もし,あるならば,我々もそれなりの対応をしなければ,企業の餌食にされてしまう。元来,我が国では医療は営利目的であってはならないとされている。我々の感覚では医療を営利産業と捉える考えは,なじまない。
 ところで混合診療を解禁するメリットとは何であろうか?疾病に悩む人々が,「いくら費用がかかっても,先進医療を受けたい,良い薬を使いたい」と思うのは人情である。裕福な人々が自分の望み通りの医療を受けられるメリットはあるであろう。また,経済団体,有識者と言われる混合診療推進論者によると,医療産業は数十兆円の規模との試算もある。それ程ならば,経済活性の面から見ると,大いに食指が動くのも肯がえんぜられるし,大きな牽引力になるかもしれない。政財界が経済不況の解決策として躍起になって取り上げるのも無理はない。
 一方,日医が主張しているごとくデメリットも大と思われる。現在の皆保険制度は保険に項目収載してあれば,保険証一枚で日本国中,皆が等しく治療を受けられる仕組みである。しかし,高額な費用を支払ってでも治療を望む裕福な人々が,保険外でも自由に受けることが出来るとなれば,国は医療保険の負担を軽減するために保険収載に逡巡するであろう。そうなればいつまで経っても裕福でない人々は先進・高額医療から取り残されてしまう。本来であれば,高額医療であろうとも国民のためであれば,国は率先して保険収載し,万人が等しく利益を享受するようにすべきである。より良い医療を受けたいと思うのは裕福な人達ばかりではない。
 日医は,上記のごとく混合診療は国民皆保険制度を破壊する,医療の格差が生ずると述べている。政府は混合診療を解禁しても国民皆保険制度は堅持する,形を変えて存続若しくは再生する等と言っているが,それは詭弁である。その,万人が等しく医療を受けられる国民皆保険制度を,偏った利益追求のために破壊すべきではない。一旦,壊れた制度を元に戻すことは不可能である。
 したがって,国民皆保険制度を堅持するべき立場からは,混合診療解禁には反対である。会員諸氏も思いを同じくして混合診療解禁阻止にご協力を請う次第である。
                                      (平成26年8月27日)


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