平成26年10月

宮崎県医師会長 河野 雅行

          地域医療における在宅医療
             


 来年度福祉予算が自然増を加えて30兆円を超えた。そのうち,医療に関しては1/3の10兆円程を占める。加えて元気な若年者の減少,医療を要する高齢者の増加等,医療費の増大を示唆する要素が大きく,国も危機感を募らせている。今後は医療・福祉予算縮減に拍車が掛かると思われる。その一策として,在宅医療を再度重視する方向性が示され,今回の診療報酬改定でも在宅医療を推進すべき処置が盛り込まれている。
 我が国では古くは,大部分の国民は在宅での医療,看取りが普通であり,医療・福祉が生活の場と一体であった。その後,集約的・高密度な医療が施される入院が増える傾向となり,特に昭和の後半には核家族化が進み,介護も兼ねた社会的入院も増え,病医院での看取りが8割を超えた。
 平成6年に在宅医療の方針が決定し,20年を経ても浸透しないのは様々な問題がある。一つは,財政的な理由が主で国が簡単に方針を決めても,性急な体制変化は医療現場に混乱を招くばかりである。また,在宅の定義が大きく異なっている。家族の在り方の変化により,在宅医療を受け入れるべき場所がなく,家族がいない。この傾向は少子化も相俟って更に深刻になっている。看取りまで含めた対策が必要で,国民・社会の意識を変えない限りは困難である。一方,帰るべき場所の確保ができない人々の受入れ先となる宅老所や諸々の老人施設に対する今回の診療報酬の配分を見ると,結果的に在宅医療を制限している印象も拭えない。単に財政的な理由であれば,既存の有床診療所の活用が最も有効で容易であったと思われる。現在の医療費と介護費を足した額よりも,以前の形態から推測される医療費単独の方が,安上がりではないか。
 しかし,活用すべき有床診療所が過去の国の施策によって消滅寸前にある。往時は全国津々浦々に存在し,地域医療の中心的役割を担っていた有床診療所が現在では激減し,更に減少傾向にある。
 また,在宅医療現場で活動するのは医師,看護師のみではなく,介護関係,行政,家族,その他様々な人々が関与している。その間の意思統一や意思疎通を図ることが困難な上に,家族の対応も種々である。更には緊急時のバックアップ体制の不備も挙げられる。そこで,地域包括ケア体制の整備が急がれることになったが,在宅医療の現状は,熱心な先生方の奉仕精神に委ねられている部分が多い。今一つの問題は,在宅医療を行う医師は単なるゲートキーパーでは終われない。各科の医師が極端に専門分化してしまったために,現場の医師が在宅医療に取り組もうとしても,全ての疾患への対応を要求されることに戸惑いを感じている。最近になり,総合診療医の教育・研修が始まったが,全国に充足するには時間を要するし,すぐに現場で実践するには様々なハードルがある。更に,現在進行中の新専門医制度の行方も不透明である。
 このように問題点は数多いが,社会構造が変化していく以上,在宅医療が将来,地域医療の主流となるのは必須で,今こそ,皆で知恵を出し合い積極的に取り組むべき時である。国が推奨しているように医療,介護,行政,家族,地域までも含めた地域包括ケアの充実・整備が望まれる。最も重要なのは在宅医療も地域医療の一部であり,医療が中心として活動すべきで,会員諸先生方のご協力をお願いしたい。
                                     (平成26年9月30日)
                                      


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