平成27年2月

宮崎県医師会長 河野 雅行

            「公的国民皆保険制度」を守る
             


 我が国は,世界でも冠たる長寿国となった。健康長寿が達成されたのを受けて,国民生活のレベルも昔年に比べれば雲泥の差がある。長寿を成し遂げた要因は医学・医療の進歩,食生活の改善や国民の健康に対する知識の向上等々,様々挙げられているが,最大の功労者は「公的国民皆保険制度」であることは否やはない。過去に社会保障が充分でなかった時代には,国民の健康度には悲惨なものがあった。多くの文献・書簡・伝聞がそれらを伝え残している。その様な時代に先達が苦労して作り上げたこの制度の効果を今になり,我々は享受していることになる。後の世代にもこの制度は残すべきである。しかし,この貴重な制度が様々な力や理由により少しずつ侵襲されつつある。特に国の変遷する医療費予算から生ずる政策にも拠り,制度は弱体化の危機にある。政府は制度を守ると繰り返し述べている一方,財政的な現状では持続すること自体が困難であるとも述べている。如何なる形・程度の制度存続を考えているのか。小出しに出ている国の方針をまとめて推測すると,低負担・低福祉となる可能性が強い。公的保険と民間保険の組み合わせを考えているのであろうか。完全な補償は望むべくもないが,公的の部分が次第に薄まりつつある感を受ける。
 国の興亡は健康を基とした国民の勤勉性と向学心によると申しても過言ではない。先達の遺産の食い繋ぎだけでは将来の展望は見えない。目先の事象のみで行動すれば将来の大計を誤りかねない。1,000兆円にも達する国の借金を返済しようとすれば,国民が長期間に渡り汗水を流して懸命に働かねばならない。基礎となるのが健康と,先達賢人の述べている学問である。国民が健康になれば国も豊かになる。即ち,国力向上に繋がる。国民の健康・生命を守るのは国の最大責務で,その役割を我々医師・医師会が担っているのであり,今こそ,「公的国民皆保険制度」を守るために立ち上がる時である。制度を守るべき立場として,医師が先頭に立つのは勿論で,我々はこの制度の素晴らしさを国に対して訴えると共に,広く国民に知らせる努力を怠ってはならない。高福祉を求めれば当然高負担が生じる。それとも「低負担低福祉」を受け入れるのか。当事者である国民が真剣に考えるべき問題である。しかし,このような当たり前の論理であれば政治は必要ない。「低負担高福祉」の実現を工夫するのが政治の責任であり醍醐味であるとも言える。昨年末の総選挙で予想通り与党が圧勝した。今なら政府が本気になれば何でも出来る。当に,財政状況の厳しい今こそ,100年の大計の元に「公的国民皆保険制度」を堅持していただきたい。                             (平成27年1月26日)
                                      


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