平成27年5月

宮崎県医師会長 河野 雅行

              新専門医制度について
             


 明確な統一した基準がない各学会が,独自の制度設計の元に認定している現在の専門医は80以上あり,種々の問題があると指摘されている。そこで,第3者機関を設立して統一した基準による,新専門医制度の考えが浮上してきた。
 1)専門医の質を担保 2)患者に信頼され,受診の良い指針になる 3)専門医が公の資格として国民に広く認知・評価される 4)プロフェッショナル集団としての医師が誇りと責任を持ち,自律的に運営する制度を基本理念として,具体的な案を練る検討委員会が立ち上げられ下記の報告がされた。
 医師は19の専門領域のいずれか1つの専門医を取得する。専門医の認定は,経験症例数等の活動実績を要件とし,更新の際にも同様とする。第3者機関が認定する専門医を広告可能とする。新専門医制度に期待される効果として,専門医の質の一層の向上,医療提供体制の改善が挙げられている。
 現在の専門医制度の問題の一つとして,専門医であるが故に自分の専門領域以外には手を出さないし,他科への遠慮や社会情勢(特に訴訟問題)から手が出せない。一般市民の専門医指向もある。古くは地域毎に数人の医師(一般医)が居ればプライマリ・ケアは事足りた。今では専門医として細分化されたために倍の医師が居ても足りない。しかし,過去に何でも診てもらえる便利な一般医は,一方では「開業医・町医者」として,一段低く見られる風潮があった。まず,この医師同士や市民意識を改革する必要がある。今回改訂の眼目の一つは,その町医者を総合診療専門医として,社会的立場を明確にしたことではあるが,懸念もある。今後は総合診療医でなければプライマリ・ケアにはタッチできない風潮にはならないか。総合診療医が増えて偏在なく地域への配分がなされれば,地域医療の医師不足が随分と緩和される反面,総合診療医を志す医師が増えることに反比例して,他科専門医への希望者が減りはしないか。更に,各科の専門医を育てるには,指導医・設備等々の基準を満たした条件下での経験症例数が必須としてある。条件の揃った,いわゆる大病院は大都市に多く集中しているため,専門医取得希望の医師は,必然的に大都市に集中してしまうのではないか。そうなれば地方の医師不足がますます深刻な事態になると危惧される。研修要件緩和,カリキュラムの組み替えが必要であろう。
例えば,大都市病院と地方病院との相互乗り入れ研修や,一定期間の過疎地勤務の義務化等はいかがか。
 新専門医制度下での医師養成開始は決定されている。時代の変遷と共に制度の見直しは必要ではあるが,途中で急激な制度変更がなされると,現場は混乱するばかりである。施行前に充分な検討を加えて,少なくとも現時点での懸案事項は解決・払拭しておいていただきたい。                 (平成27年4月20日)
                                      


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