平成27年9月

宮崎県医師会長 河野 雅行

            医療事故調査制度について


 社会問題化した医療死亡事故が契機となり,医療事故調査制度が施行される。医療機関で発生した予期しない死亡事故例を,公正な調査機構により原因究明を行い,再発を予防して今後の安心安全な医療に資することが主旨であり,医療機関や個人の責任等を問うものではないとされている。これは大変重要である。不幸な結果になったとはいえ,善意による医療行為施行者等が刑事事件の犯罪者として逮捕されるようでは,医療現場は大幅に萎縮してしまう。
 この制度の他のメリットとして,現在では予期しない死亡例は医師法21条により限られた時間内に警察への届け出が義務付けられているものが,医療事故調査機構・支援センターに届けることにより,パニック状態から脱して冷静に検証することができる。更に,医学的・学問的調査ならば,ある程度納得でき,警察による捜査に比べて精神的負担は少ない。しかし,調査の結果いかんによっても,報告をすることによって民事や刑事訴追が免罪される訳ではない。
 課題としては,多々ある。医療事故は様々な要因の組み合わせで発生することが考えられ,他の医療関係団体や大学・各専門医学会との協議会設立も必要となる。日本医師会では総合的に観ると県医師会が主導するべきとしている。また,規模の限られた中小病院や診療所で独自の調査部門を設置するのは困難で,そのような場合には,医師会等が支援団体となりサポートすることとされている。しかし,ほとんどの県医師会には充分に対応できる余裕がない。情報によると,九州各県の実情もすでに取組みが進んでいる福岡県を除けば大同小異である。そこで,関連団体の協力が必要になる。次に,検証が単に原因究明で終わらない可能性がある。遺族への検証結果説明も不充分では反って不信感を招来する。当然,検証のプロセスは刑事訴訟の場合と同様に厳正な調査となる。その得られた結果を裁判の証拠書類として利用される可能性も否定できないし,現に先行実施した医療機関ではそのような事例も発生している。しかし,責任が問われるなら全ては話さないでは,真の原因究明にはならない。一方,認められている黙秘権との整合はいかにするのであろうか。更に,報告書が不充分では原因究明・再発防止の趣旨に合致しない。学術論文並みを要求されれば,限られた時間・人員・費用の面から困難となる。ある程度パターン化した簡略なものにならざるを得ない。しかし,調査結果内容は,遺族や第三者をも納得させ得るものでなければならない。その他運用にあたっては,費用,会議の持ち方や解剖・A i等まで含めた様々な課題がある。いずれにせよ制度は10月から施行と決定されており時間的ゆとりは少ない。
 宮崎県医師会も支援団体として指定を受けたので,濱田副会長を中心に鋭意準備中である。先進県や諸方面からの資料・情報収集,講師を招いて研修会を開催し,更に,頻回にFax 通信やメール(M M A 通信)で情報提供して参りますので,会員諸先生方におかれましても制度へのご理解とご協力をお願いいたします。                        
                                       (平成27年8月18日)
                                      


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