おしえて!ドクター健康耳寄り相談室

  平成17年7月9日放送

高齢者とうつ病
       

         宮崎県医師会  吉田建世

 

高齢者のうつ病は、最近増加傾向にあり、60歳以上の高齢者の15%はうつ状態にあり、5%がうつ病であると言われています

 

Q)高齢者のうつ病が多い理由は?

ひとつは、高齢期という年代が関係しています。この年代は、喪失期と言われ、仕事や健康や、場合によっては愛する家族まで失う時期であります

また、高齢者がうつ病になり易い状況というものがあります。それは、体の病気です。体の不調を含め、新たな病気にかかるとか、それが長く続くとかいう状況で、高齢者はうつ病になり易くなります。また、不眠が続くことも要因になります。

 そして、うつ状態を伴うことの多い病気もあります。脳血管障害心臓病パーキンソン病アルツハイマー病がそれです。また、大腿骨骨折もうつになり易い疾患であります。

 

 このように、高齢者はうつ病になり易い状況にありますが、しかし、実際には本人も家族も「うつ病である」と気付かないことが多いのです。

 

Q)うつ病と気付きにくいのはなぜ?

本来、うつ病は、「気分が落ち込む」、「不安感が強い」、「意欲が出ない」、「夜眠れない」などの症状が出る病気です。しかし、高齢者のうつ病では、症状が典型的でなく、気分の落ち込みよりも、体の症状が前面に出ることが多いことが挙げられます。

また、うつ病の症状の「疲れやすい」「あちこちが痛い」 といったものは、普通の高齢者でもよく見かける症状である為、病気とは思われにくく

「頭がぼんやりする」「覚えていないことが多い」「不安で家事ができない」といったものは、認知症の症状と間違われたりします。

 

Q)高齢者のうつ病で注意することは?

 まず、うつ病の初期に症状が見逃されることが多いことです。そして、もし治療をしなければ症状が悪化していくことが挙げられます。

そして遂には、「自分はもう治らない」「迷惑をかける」などと悲観的に考え、自殺に及ぶ危険が高くなりますので、注意が必要です。実際わが国で、自殺者が最も多いのは60歳以上で、全体の34%を占めています。これは深刻な問題です。

 

Q)治療について?

まず、その症状がうつ病によるものだと早く気付くことが必要です。そして早期に受診する事が重要です。適切な治療をしますと、たいていは、1、2ヶ月で症状は消失し、気分が改善していきます。

実際の治療は、休養抗うつ薬による薬物療法が中心となります。最近は、副作用の少ない薬がたくさん出ていますので、外来通院で治療ができることも多く、そういった点では安心かと思います。しかし、食べられなくて体が弱っているとか、「死にたい」気持ちが強い場合などには、入院治療のほうが適しています。

 

Q)家族はどのように対応すれば?

まず、本人の「つらさ、悲しみ」などの気持ちを理解してあげることです。そして十分な休養を取ってもらうことです。よく落ち込んでいる人に、「がんばれ」と言う人がいますが、うつ病の人にこれ禁句です。そして、やはり重要なことは、「死にたい」などの自殺のサインを見逃さないことです。

うつ病は、「こころのかぜ」と言われ、誰もがかかる病気です。安心して受診を進めるようにしてください。恐ろしいのは、うつ病を放置してしまうことなのです。