おしえて!ドクター健康耳寄り相談室

第22回 5月31日放送
3割負担について
 
宮崎県医師会常任理事 稲倉 正孝

 
1.被保険者本人一部負担3割について
 保険診療に際して、患者さんが医療機関の窓口で支払う医療費を一般的に「一部負担金」と言っています。「一部負担金」については、健康保険法及び療養担当規則等の法律によって決められています。健康保険法の改定によって、平成15年4月1日から被保険者本人の一部負担金が2割から3割に変更されました。
 保険医療機関は、保険者に代って、本来保険者が徴収すべきこれらの一部負担金を受領し、この額を控除した額を診療報酬として保険者に請求するようになっています。
 従って、一部負担が2割から3割になって、患者さんの窓口での支払いが増えても、医療機関の収入が増えることにはなりません。
 平成14年4月以来3度にわたっての診療報酬改定によって、医療機関の収入は、診療科によって異なりますが、5〜10%の減収となっています。
 
2.通院時の薬剤一部負担の廃止について
 医療費削減策の一環として、平成9年9月1日から平成15年3月31日まで、通院時に医療機関で薬の支給を受ける際に、薬剤の種類等に応じて一部負担金を支払っていました。
具体的には、内服薬が
1種類の場合   薬剤負担金    0円
2〜3種類で   1日につき    30円
4〜5種類で   1日につき    60円
6種類以上で   1日につき   100円
となっていました。今回の改定によって、保険本人の薬剤一部負担が廃止されました。従って、今回の健康保険法の改定によって、一部負担金が安くなった方もおられます。
 
3.被保険者本人一部負担3割の導入による受診抑制について
 一部負担3割の導入によって、大部分の被保険者本人で窓口での支払いが増加し、受診抑制が起こっています。
 被保険者本人の方は、年齢的な要因、ストレスの多い不適切な生活習慣等のために、高血圧、糖尿病、高脂血症、癌などの生活習慣病に罹患されている方が多いわけです。長引く不況のために、収入が少なくなっており、自由に使えるお金も少なくなっています。
  このようなときに、自己負担を増やすことは、受診したくとも受診しにくい状況をきたしています。
 このような状態が続きますと、脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、手遅れの進行癌などの重大な合併症に罹患される方が増えることが予想されます。   この事を私共医療関係者は恐れています。
 被保険者本人の方は、一生懸命働いて、日本経済を支え、一家の大黒柱として家族を支えておられます。受診抑制によって、一家の大黒柱が心筋梗塞、脳血管障害、末期癌等に罹患され、不幸にして亡くなられたり、重篤な障害が残ったりすれば、家族にとっては重大な問題であり、国家にとっても大きな損失となります。
 国の財政、経済が苦しい状態にあることは承知していますが、このような逆境にあるときほど、国民の健康を守ることが大切であり、国民の不安を除去することが重要であると思っています。
 
4.日本医師会が被保険者本人3割負担に反対している根拠について
 ご承知のように、医療費が増加している最大の原因は、老人医療費の増加によるものです。政管健保をはじめとし、全ての健康保険組合の経営が苦しい最大の原因は、老人保健への膨大な拠出金です。
 今回の一連の健康保険法等の改定によって、老人保健制度の対象年齢が「70歳以上」から「75歳以上」に段階的に引き上げられました。
 70歳以上の高齢者の一部負担金は入院・外来ともに原則1割負担、一定以上の所得のある方は定率2割負担となりました。最近の日医の調査では、老人医療費も減ってきており、老人保健への拠出金も少なくなっています。
 しかも、平成16年度以降は、国庫負担割合の増加と対象年齢の引き上げで、老人保健拠出金がさらに減ることになります。
 更に、今回の法律の改定によって、保険料がボーナスからも徴収されるようになり、保険料収入が大幅に増加するようになっています。
 このような理由で、保険本人3割負担を導入する理由は何もないと日本医師会は主張しています。