2023年9月時点

制度全般について

Q. なぜ医師の時間外・休日労働時間の上限規制が必要となるのでしょうか。

医師は他職種と比較して抜きんでた長時間労働の実態にあり、日本の医療が医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられている危機的な状況にあります。長時間労働の是正による医師の健康確保、仕事と生活の調和を踏まえた多様で柔軟な働き方の実現を図ることが、医療の質と安全性の確保、これからの医療を支える人材の確保、地域の医療提供体制を守ることにつながることから、時間外・休日労働時間の上限規制等の働き方改革が必要となっています。
詳細は、「医師の働き方改革に関する検討会報告書」「医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめ」をご参照ください。

Q. 医師資格を有している者の全員が、今回の働き方改革制度の対象となるのでしょうか。
また、医師以外の医療従事者は今回の働き方改革制度の対象となるのでしょうか。

2024年4月から始まる制度(上限規制・追加的健康確保措置)の対象となる医師は、病院、診療所に勤務する医師(医療を受ける者に対する診療を直接の目的とする業務を行わない者を除く。)又は介護老人保健施設、介護医療院に勤務する医師です。このため、病院等以外で勤務する医師や病院等で患者への診療を直接の目的とする業務を行わない医師(産業医、検診センターの医師、裁量労働制(大学における教授研究等)が適用される医師等)はこの対象に当たらず、時間外労働の上限時間は、一般の業種の労働者と同様の基準が適用されます。
また、医師以外の医療従事者については、2019年4月(中小企業は2020年4月)より、一般の業種の労働者として、時間外労働の上限規制が適用されておりますので、医療機関においては、医師の働き方改革と併せて、医師を含めた全職種の働き方改革を進めていくことが必要です。

Q. 医療機関で働き方改革を進めるに当たり、制度内容の理解や病院内の運用整備に困ったときの相談窓口があれば教えてください。

医療機関の勤務環境改善の取組を支援するため、「医療勤務環境改善支援センター」が設置されています。同センターでは、無料で社会保険労務士、医業経営コンサルタント等からの助言、支援を受けることができます。医療機関での働き方改革を進めるに当たって、何かお困りごとや相談がありましたら、お問い合わせください。 なお、お問い合わせにあたっては、厚生労働省が運営する医療機関の勤務環境改善に関するポータルサイト“いきいき働く医療機関サポートWeb”(いきさぽ)掲載の内容も併せて参考ください。

副業・兼業について

Q. 複数医療機関に勤務する医師については、どの医療機関が勤務間インターバルや代償休息付与の責任を負うのでしょうか。
また、この責任を負う医療機関は、どのような方法で副業・兼業先の労働時間を把握・管理すれば良いのでしょうか。(※)

複数医療機関に勤務する医師の勤務間インターバルや代償休息等の健康確保措置については、各医療機関の管理者が当該医師の自己申告等により労働時間を把握・通算した上で実施の責任を負うこととなります。
勤務間インターバルについては、主たる勤務先が副業・兼業先の労働も含めて、事前にこれらを遵守できるシフトを組むことにより対応することとなりますが、代償休息をどちらの医療機関で取得させるかについては、常勤・非常勤といった雇用形態も踏まえ、医療機関間で調整する必要があります。

Q. 副業・兼業先への移動時間は、勤務間インターバルに含まれるのでしょうか。
移動手段によって十分な休息時間がとれるか否かに違いはあるのでしょうか。(※)

移動時間は、各職場に向かう通勤時間であり、労働時間に該当しないため勤務間インターバルに含むことは可能です。一方、遠距離の自動車の運転等により休息がとれない場合も想定されることから、そのような場合には、別に休息時間を確保するために十分な勤務間インターバルを確保する等の配慮が必要になります。

Q. 複数医療機関に勤務する医師について、月の労働時間数が一定基準を超えた医師に対する追加的健康確保措置としての面接指導及び就業上の措置は、どの医療機関で実施する必要があるのでしょうか。

複数医療機関に勤務する医師の追加的健康確保措置としての面接指導については、いずれかの医療機関で面接指導が実施され、その面接指導の結果が当該医師の勤務する医療機関に提出されれば、他の医療機関で重ねて面接指導を実施する必要はありません。
どの医療機関で面接指導を実施するかについては、各勤務先の医療機関で適用される水準や常勤・非常勤といった雇用形態等を踏まえ、あらかじめ医師と各勤務先医療機関が相談の上で面接指導実施先を決めておくことが望ましいです。
なお、面接指導の結果に基づく就業上の措置や複数医療機関の時間外・休日労働時間を通算して月155時間を超えた場合の就業上の措置については、当該医師を雇用する各医療機関の管理者が実施する必要があります。一方で、当該医師の勤務形態や長時間労働の要因となっている事項等を確認した上で、連携して実施することも可能です。

宿日直について

Q. 宿日直許可を得た宿日直と勤務間インターバルの関係を教えてください。

「宿日直許可を得た宿日直」は、労働基準監督署長の許可を受けることにより、労働時間等に関する規制の適用が除外となるものであり、一般の宿直業務以外には特殊の措置を必要としない軽度又は短時間の業務に限られることや、宿直の場合は夜間に十分睡眠がとり得ること等が必要とされています。
一方、「勤務間インターバル」は、1日の勤務終了後、翌日の出勤までの間に、一定時間以上の休息時間を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです。この「勤務間インターバル」は、通常の労働時間の拘束から完全に解放された後のものである必要がありますが、「宿日直許可を得た宿日直」は、上記のとおり、軽度又は短時間の業務に限られることや、宿直の場合は夜間に十分睡眠がとり得ることが必要とされるものであることから、一定の場合には、当該宿日直中の時間を「勤務間インターバル」とみなすことができるとされています。

Q. 宿日直許可を得た宿日直に従事する時間については、全て勤務間インターバルとみなすことができるのでしょうか。

宿日直許可を得た宿日直について、24時間を経過するまでに連続して9時間以上従事する場合には、9時間の連続した休息が確保されたものとみなし、勤務間インターバルに充てることができますが、9時間未満の場合は勤務間インターバルとみなすことはできず、別に9時間の連続した休息を確保する必要があります。

労働時間管理について

Q. 管理者は、医師の労働時間の状況について、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により把握することとなっていますが、自己申告による労働時間管理は不適切でしょうか。

自己申告による労働時間管理自体が直ちに不適切ということではありませんが、その方法だけでは不十分であり、自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて確認、補正できるようにする等の措置を講じる必要があります。詳細については「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日厚生労働省策定)を確認ください。

Q. 複数の医療機関に勤務する医師について、労働時間の把握はどのようにしたら良いでしょうか。

地域医療支援を行うために医師を他の医療機関へ派遣している場合や、自院で雇用する医師が副業・兼業を行っていることを把握している場合、医師本人の自己申告等により、副業・兼業先の労働時間を把握し、把握した副業・兼業先の労働時間と自院での労働時間を通算して、労働時間を管理していただく必要があります。このため、副業・兼業先の勤務予定や労働時間を把握するための仕組み作りが重要です。
なお、副業・兼業の際の労働時間の通算の考え方等は厚生労働省ホームページの「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を確認ください。

勤務間インターバル・代償休息について

Q. 勤務間インターバルと代償休息はどういうものでしょうか。

勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保する仕組みをいいます。医療法に基づく勤務間インターバル規制は、原則として以下の2種類が設けられています。

  1. 始業から24時間以内に9時間の連続した休憩時間(15時間の連続勤務時間制限)
    ※通常の日勤の場合
    ※24時間以内に9時間以上の宿日直中許可のある宿日直に従事する場合、①が確保されているとみなされる
  2. 始業から46時間以内に18時間の連続した休息時間(28時間の連続勤務時間制限)
    ※宿日直許可のない宿日直に従事する場合
    (注)臨床研修医については、入職まもない時期でもあることから、連続勤務時間制限等を手厚く等の別途規定あり。

なお、確実に休息を確保する観点から、9時間又は18時間の連続した休息時間は、事前に勤務シフト表等で予定されたものであることが原則となります。また、予定された9時間又は18時間の連続した休息時間中にやむを得ない理由により発生した労働に従事した場合には、従事した労働時間に相当する休息時間(代償休息)を付与する必要があります。代償休息は、対象となる労働時間が発生した日の属する月の翌月末までにできるだけ早期に確保する必要があります。
勤務間インターバル及び代償休息は、特定労務管理対象機関で各特例水準が適用される医師に対して、その実施が義務となり、A水準の医師については努力義務となります(※)。

Q. 代償休息は年次有給休暇で付与しても良いのでしょうか。

代償休息の付与は、所定労働時間中における時間休の取得又は勤務間インターバル幅の延長のいずれかによることとしています。疲労回復に効果的な休息付与の観点等(※)も踏まえ、医療機関の就業規則等において整理していただくことが望ましいと考えます。なお、年次有給休暇は勤務医が取得時季を決めるものですので、その意に反して付与することはできません。その点にはご注意ください。

連続勤務時間制限及び勤務間インターバルを実施できなかった場合の代償休息の付与方法については、対象となった時間数について、所定労働時間中における時間休の取得又は勤務間インターバルの延長のいずれかによることとするが、疲労回復に効果的な休息付与の観点から以下のような点に留意する。
・ 勤務間インターバルの延長は、睡眠の量と質の向上につながる
・ 代償休息を生じさせる勤務の発生後、できる限り早く付与する
・ オンコールからの解放、シフト制の厳格化等の配慮により、仕事から切り離された状況を設定する
また、代償休息は予定されていた休日以外で付与することが望ましく、特に面接指導の結果によって個別に必要性が認められる場合には、予定されていた休日以外に付与する。

Q. 宿日直許可のある宿日直(9時間)中に業務が発生した場合、当該業務に従事した時間分の代償休息を付与しなければいけないのでしょうか。

医師が宿日直許可のある宿日直中にやむを得ない理由で業務に従事した場合、管理者は代償休息を与えるよう配慮しなければなりません。C-1水準が適用される臨床研修医については代償休息の付与は義務となります。
なお、宿日直中許可のある宿日直(9時間)に従事した後においては、通常と同態様の業務が発生したとしても、代償休息の(配慮)義務はありません。

Q. 宿日直許可のある宿日直(4時間)と休息時間(5時間)を足して、連続した9時間の勤務間インターバルを確保したとすることはできるのでしょうか。

宿日直許可のある宿日直に従事した時間を「連続した9時間の勤務間インターバル」と扱うことができるのは、9時間以上の連続した宿日直許可のある宿日直を行った場合のみで、9時間未満の宿日直許可のある宿日直と5時間の休息時間を足して連続した9時間の勤務間インターバルを確保したこととすることはできません(当該時間とは別に9時間の休息時間を確保しなければなりません)。

Q. オンコール待機時間は労働時間に該当するのでしょうか。

オンコール待機中に求められる義務態様は、医療機関ごと、診療科ごとに様々であり、

  • 呼び出しの頻度がどの程度か、
  • 呼び出された場合にどの程度迅速に病院に到着することが義務付けられているか、
  • 呼び出しに備えてオンコール待機中の活動がどの程度制限されているか

等を踏まえ、オンコール待機時間全体について、労働から離れることが保障されているかどうかによって、労働時間に該当するか否かが個別具体的に判断されることになります。

面接指導について

Q. 時間外・休日労働時間が月100時間見込みの医師について、原則として月100時間に達するまでの間に実施しなければならないとされていますが、実施すべき具体的な時間数の目安はあるのでしょうか。

ある程度の疲労蓄積が想定される80時間前後を目安とすることが推奨されます。なお、特例水準が適用されていない医師(A水準が適用されている医師)であって、疲労蓄積がないと認められる場合は、月100時間に達した後遅滞なく面接指導を行うことでもよいとされております。

Q. 月100時間を超える前に実施すべき面接指導については、同じ医局、診療科の医師同士でも実施可能なのでしょうか。

改正後の医療法施行規則第65条において、面接指導実施医師の要件として次のとおり規定されています。

  • 面接指導対象医師が勤務する病院又は診療所の管理者でないこと
  • 医師の健康管理を行うのに必要な知識を修得させるための講義を修了していること

このため、面接指導実施医師による面接指導について、本要件を満たす者であれば、同じ医局、診療科の医師同士で実施することについて医療法上禁止されているものではありませんが、「長時間労働の医師への健康確保措置に関するマニュアル(令和2年12月)」において「同じ部署の上司は避けることが望ましい」とされているほか、「医療機関の医師の労働時間短縮の取組の評価に関するガイドライン(評価項目と評価基準)第1版」(令和4年4月 厚生労働省)においても「面接指導実施医師が、面接指導対象医師の直接の上司とならないような体制を整備すること」とされておりますので、これらを踏まえ、面接指導の実施体制については、面接指導を受ける医師が安心して面接指導を受けられ、本人の健康確保につながる体制であるかどうかという観点から適切に判断いただくことが必要です。

Q. 面接指導実施医師は産業医でなくても良いのでしょうか。
また、産業医であれば無条件で面接指導実施医師として良いのでしょうか。

面接指導実施医師となるためには以下2つの要件を満たす必要があります。

  • 面接指導対象医師が勤務する病院又は診療所の管理者でないこと
  • 医師の健康管理を行うのに必要な知識を修得させるための講義を修了していること

このため、産業医ではなくとも、上記2つの要件を満たさす場合は、面接指導実施医師として面接指導を実施することができます。また、産業医であっても、上記2つの要件を満たさなければ、面接指導実施医師として面接指導を実施することはできません。

Q. 面接指導で確認すべき内容にはどのようなものがあるのでしょうか。

面接指導実施医師が面接指導で確認すべき内容は、「勤務の状況」「睡眠の状況」「疲労の蓄積の状況」「心身の状況」となります。
また、医療機関の管理者は、面接指導を適切に行うための情報(面接指導対象医師の氏名、勤務の状況、睡眠の状況、疲労の蓄積の状況、心身の状況等)を確認し、事前に面接指導実施医師へ提供する必要があります。

特例水準の指定について

Q. 当医療機関が特例水準のいずれの指定を受けるべきかわかりません。
どういった観点でそれぞれ特例水準の指定を受ければ良いでしょうか。

各特例水準の内容は下記のとおりです。各医療機関では各特例水準の内容に応じた指定申請を行う必要があります。

  • <B水準>
    地域医療提供体制の確保の観点から、必要とされる機能を果たすために、自院において、時間外・休日労働時間が年960時間を超える場合に設けられた水準です。
  • <連携B水準>
    地域医療提供体制の確保の観点から、医師の派遣を通じて時間外業務が必要とされるために、自院では時間外・休日労働時間は年960時間以内ですが、副業・兼業先での労働時間を通算すると年960時間を超える場合に設けられた水準です。
  • <C-1水準>
    臨床研修及び専門研修に関わる業務であって、一定期間、集中的に診療を行うことにより基本的な診療能力を身につける場合のため、時間外・休日労働時間が年960時間を超える場合に設けられた水準です。
  • <C-2水準>
    高度な技能を有する医師を育成することが公益上必要とされる分野において、指定された医療機関で、一定期間集中的に当該高度特定技能に関連する診療業務を行うため、時間外・休日労働時間が年960時間を超える場合に設けられた水準です。

Q. 特例水準の指定の要件や申請手続を教えてください。
また、特例水準の指定申請に当たり、相談できる窓口はありますか。

特例水準の指定を希望する医療機関は、計画的に労働時間短縮の取組を進めるための労働時間短縮計画(案)を作成し、医療機関勤務環境評価センター(評価センター)にて計画内容を含めた労働時間短縮の取組の評価を受ける必要があります。評価センターによる評価結果の受領後、医療機関は、当該評価結果と指定に関係する各種申請書類(下記参照)を揃えて所管の都道府県へ申請することになります。なお、特例水準の指定申請にあたっては、各都道府県に設置されている「医療勤務環境改善支援センター」にて、特例水準の取得に向けた勤務環境改善の取組や、労働時間短縮計画の作成等、医療機関が指定申請に当たって必要となる取組の支援を行っていますのでご活用ください。

指定申請に関係する主な必要書類

  • 医療機関勤務環境評価センターの評価結果
  • 令和6年4月以降を計画の対象とした労働時間短縮計画の案
  • 各水準の指定に関係する業務があることを証する書類
  • 追加的健康確保措置(勤務間インターバル、面接指導)を実施する体制が整備されていることを証する書類
  • 送致等の法令違反がないことを誓約する書類
  • 厚生労働大臣の確認を受けたことを証する書類(C-2水準のみ)