令和5年10月号 マイナンバーカード保険証

 マイナンバーカードについては多くの意見があります。さまざまな手続きなどが1枚のカードで処理できる便利なシステムは,現代の生活・社会に大きな効果が期待され,すでに医療界を含め広い分野で取り入れられています。しかし,ニュースではマイナンバーカードと健康保険証などを紐づけすることにより,他人の情報が記入されていたなどのトラブルが多く発生して騒がれています(5月13日ニュース7,300件)。当局は主として入力ミスによるものとの説明をしていますが,一部ではカードを返却する動きもあるようです。

 7月20日付の宮崎日日新聞で,トラブル発生の過多によりデジタル庁への立ち入り検査が報じられました。トラブルは政策の実施を急いだことによるものと思われます。これは政権の大きな失策になる可能性があります。それでも政府は証明書発行などの救済処置を準備したうえで来年度には紙の健康保険証を廃止するとしています。これだけが原因ではありませんが,内閣の支持率が下がっています。今回はトラブルについて徹底的に調査して原因を明確にして改善を図っていただきたいものです。

 マイナンバーカード保険証の利便性は十分認識されており導入の方針は同意できます。実施に当たり丁寧な説明をしたとの当局答弁ですが,果たして国民は十分理解できていたのでしょうか。私たち医師は法律で患者さんに対して丁寧に説明することを義務付けられています。しかし丁寧に説明したつもりでも患者さんに十分納得させるのは至難の業で,もし医療裁判にでもなれば説明不十分と簡単に断定されます。医師に丁寧な説明を要求するのであれば,法律を作る立場の政治家や実施する行政もその範を垂れて欲しいものです。政策は,場合によっては,まず目標や実施時期を決定した後に算段する手法も必要かもしれません。しかし,昨今の行政はこのパターンがあまりにも多すぎる印象があります。最初に改定率が決まる診療報酬改定のプロセスはまさにこの典型です。

 マイナンバーカード保険証のせっかくの利便性も国民の信用がなければ宝の持ち腐れになってしまいます。国民に対し,丁寧に説明し,十分理解をしたうえで,慎重に運用していただきたいものです。

令和5年10月号