令和6年2月号 医師の品位

 厚労省には,医療関係者(国家資格)の絡んだ事件に対して行政処分を審議する医道審議会があり,毎年,医師・歯科医師や医療関係者が処分を受けています。医道審議会の処分例を見ると法律違反の他に「医師の品位と適格性」との文言が出てきます。その程度が著しく劣れば処分(戒告~医業停止~免許取消)も重くなるようです。日本医師会の「医師の職業倫理指針」には,人間性の修養と品位の保持に努めることは,個々の医師にとっての責務でもあると書かれていますが,それでは「医師の品位」とは何でしょうか。
 この「品位」のように医療現場では表面上は理解されたつもりで当然のように使われている用語があります。
 医師は患者さんに「ていねい」に説明する義務(説明責任)がありますが,何分間説明すれば充分と言えるのでしょうか。丁寧に説明したつもりでも,相手が不満を感じれば丁寧さは成立しません。詳しく説明しようとすれば「そんなことはインターネットで知っている」と傾聴しない患者さんもいるし,しっかり説明したつもりでも「素人だから理解できなかった」と後で家族が入れ替わりに説明を求める患者さんもいます。しかも内容をカルテに記録しなければ説明したことになりません。海外の犯罪ドラマでは,警察官が容疑者を逮捕する際に「黙秘する権利がある。弁護士を呼ぶ権利がある。…」と告げています。しかし,あのような環境下では容疑者が理解できたとは思えません。あれは説明ではなく告知であるとのことですが,日本でも同じなのでしょうか。医療現場において患者さんへの説明は告知では済みません。
 「せいかく」も頻繁に使われます。医療自体が不確実なもので不正確な要素が多いのに,部分的な正確さを根拠にして全体の正確さを求めるのは無理です。ある診断がついても,その治療方法や経過については個体差やさまざまな因子も関与して,治療期間や予後も違ってきます。そもそも診断基準による限られた診断名のみでは部分的な正確さでしかありません。画像やデータは正確でも全体を述べているわけではありません。いまだ表れていない疾患などまでは正確に説明することはできません。それでも後日,見落として非難される場合もあります。
 上記以外にも意味は理解できても実施できているかは疑問な用語が多くあります。
 医師には,人の生命と健康を守るため当然のことながら常に高い倫理観と道徳感が求められています。しかし,抽象的な表現に対して行政処分が科されるともなれば問題があるような気がします。第一,この文章自体が「ていねい」「せいかく」で「品位」があるとはとても思えません。そのようなことに巻き込まれることがないよう日本医師会の「医の倫理綱領」・「綱領」・「医師の職業倫理指針」,宮崎県医師会の「医師の心得」を今一度確認し,日頃から心がけていく必要があります。

令和6年2月号