令和6年3月号 トリプル改定

 今期の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のいわゆるトリプル改定が日医の懸命の努力により,診療報酬は本体部分について0.88%アップしました。今回の改定は物価上昇や医療従事者の賃上げ分をいかに診療報酬に反映させるかが最大のポイントであり,政府も医療機関の現状を勘案して診療報酬を増額しました。しかし社会一般の給与水準にはおよばず,厳しい情勢には変わりありません。改定の内容は項目の削減や移行,新設などでますます複雑になった感じがします。面倒な手続きを必要とする加算ではなく初診料・再診料の一律アップにしていただきたいものです。
 過去に小泉内閣による医療費改革と称して2002年(‐2.7%),2004年(‐1.0%),2006年(‐3.16%)の削減が実施され通算では回復不可能なほどの額となっています。これが現状の地域医療崩壊の危機に拍車をかけたことは間違いありません。「三方一両損」とかのパフォーマンスで振り回され,結局は国民と医療機関が負担を強いられて現在の窮地に陥りました。中でも医療機関と一般社会との給与格差が問題視され,政府も人件費アップの対策を考慮したようです。具体的な点数配分は中医協で協議されますが,伝え聞くところによると中医協で協議する時点ではすでに改定率が決定されており,裁量権は限られているそうです。
 改定期ごとにさまざまな理由を挙げて財務省は減額を主張します。それぞれの立場からの考えや発言があるのは止むを得ないとしても,このままの給与体系では医療人材が転職して,人手不足が深刻になります。働き手がいなくなれば地域医療が崩壊します。地域医療が崩壊すれば人は住めません。医療問題のみが原因ではありませんが,人口減少は全国的に医療資源の乏しい地域が著明です。直近の宮崎県人口は103万人でした(最多117万人)。これは一つの市が消滅したのと同じです。壊すのは簡単でも一旦崩壊した地域医療を立て直すには数倍の努力と日時が必要ですし,以前の状態に戻すことは不可能です。崩壊の責任を医療界の努力不足と簡単に切り捨てられては心外です。
 医師の地域偏在対策として地域の点数差などの案も提示されていますが,これは大変危険です。地方の点数を高くすれば,患者さんは単価の安い都会に流れてしまい,地方の医療機関はますます患者減少が顕著になり立ち行かなくなります。第一,現在の風潮から医師を始めとした医療人材が都会を離れるとは思われません。安直な方策では皆保険制度自体が崩壊してしまいます。診療報酬を決定される皆様には厳しい地域医療の実態を把握されたうえで協議に臨んで欲しいものです。

令和6年3月号