令和6年12月号 支払基金改革

 一昨年,支払基金審査事務業務がセンター化されました。全国を6つのブロックに分け,九州においては福岡に九州審査事務センター,熊本に同センター分室が置かれ,宮崎県は熊本県と鹿児島県以外の九州各県とともに九州審査事務センター(福岡)に集約されました。これは審査事務業務の効率化を図ることが大きな目的です。宮崎の事務所職員が半減しても業務量は変わらない中で,従来の地域に応じたサービスが可能なのかの懸念には,審査事務業務はAI利用が進み業務自体に支障はないとの説明です。

 一方,審査委員会委員による審査業務は従来どおり各都道府県で行われています。センター化することにより,以前からいわれていた審査内容の標準化,レベルアップなども目論まれているようです。

 私が審査委員をしていた当時は,紙のみの審査で1日数時間4~5日を要して,手の腱鞘炎や頸・肩こりを来すなど結構な労力を要する作業でした。昨今は審査にもAIを導入して楽になったように見えますが,審査内容のハードさは変わらず,加えて標準化に合わせる努力や働き方改革などのさまざまな問題が生じており,審査員のなり手が少ないとも耳にします。

 既述のように,審査基準標準化は以前から指摘されていました。皆保険の建前からは,審査は全国一律で青本どおりに執行するのが理想ですが,青本の解釈が複数になる場合も多々あり,そこに地域特性があったと思われます。審査基準標準化のため,過去には隣県レセプトの交換審査を試みられたこともありました。センター化されたことにより標準化は一歩進んだようです。それはそれで結構なことではあります。さらに,以前から審査委員会自体に対するさまざまな批判的意見もありました。今後,AI審査が主体となれば審査委員会不要論が再燃する恐れもあります。効率化,標準化等々の面のみから言えばAIに勝るものはありません。しかし機械的な審査による一刀両断ではあまりにも無味乾燥な感があります。AI審査ではAIに合致するような診療を迫られることになります。いわゆるAI診療になり,人間相手の医療に人間味がなくなるような気がします。今までもさまざまな取組みがなされましたが,遅々として進まなかったのが今回のセンター化により一気に進展しそうな感があります。しかし制度改革は一朝一夕では成りません。無理に行えば綻びが生じて破綻します。それでも今後はAI審査が進み全国一律に向かうでしょうし,さらに一部では国保との審査基準標準化も試みられているようです。これも将来は審査基準標準化のみではなく全保険の統合が予定されているのでしょうか。

令和6年12月号