令和7年11月号 地域医療の原点

 医師が患者さんとともに疾病に立ち向かう。これこそが地域医療の原点で古来より不変です。しかし,残念ながら現在は原点どおりにはできなくなりつつあります。問題はいくつか考えられますが,第一に,人口の高齢化が進む中で医療費の増加が問題とされ,国が医療費抑制策に力を入れてきた結果,医療機関の経営が厳しくなっていることです。自分自身にゆとりがない状況では,とても医療の将来像にまで構想を持つことはできません。
 次に,人口問題を主とした社会構造が変化しており,疾病も複雑化し,治療も高度化しています。個々の医師が原点に立ち返るだけでは現代の医療は行えません。チーム医療と表現されるように,人員のみならず,医療機器,環境まで集中的に対応されなければなりません。当然,それに要する費用も増えます。財政的な理由から医療制度は頻繁に改定され今では複雑怪奇になっています。第一線の現場では頻回の制度変革に付いて行けない状態です。医師も患者さんも制度に振り回されて混乱しています。
 さらに,国の政策だけではなく疾病に対する考えが医師と患者さんとの間で乖離しているのかもしれません。地域医療の範疇に入れるには疑問のある医療行為(一部の自由診療の美容など)や医療類似行為も患者さんに受け入れられて広まっています。
 やはり,医療の在り方を見直し,原点に立ち返る必要があるのではないでしょうか。これは一朝一夕にできることではありません。30年,50年先を見据えて学生募集や定員まで含めた医学教育の在り方から再検討する必要があります。
 介護保険が始まった当初,施行しながら考えて改変するとされましたが,今となっては介護報酬の想定以上の増大に頭を悩ませているようです。このようなことは医療にも当てはまるのではないでしょうか。中枢では小さな改変にしかすぎないことでも,末端での振幅は大きくなり,我々現場の医療者も国民も右往左往しなければなりません。
 先述のように医療の原点から外れて,経済や労使,政治などの要素が複雑に絡みあってきているのが地域医療の現状です。医師が医療のみに専念できる状況ではありません。手枷,足枷,口枷をはめられた状態で,十分な医療を行えと要求されても無理があります。医療人材の確保困難,医師の高齢化や承継問題,人件費アップや物価高騰なども重く圧し掛かり,医療を辞めてしまう医師が増加しています。医師が経営も含めて安心して医療に専念できる環境が欲しいものです。

令和7年11月号